2013年5月12日日曜日

SES会社の新人営業がかわいそうになってくる件

先日、打ち合わせで来ていただいたSES会社の営業さんに

「最近はお忙しいですか?」

と尋ねると少し面白い話を聞けました。今回はそれをネタに考察を混ぜつつ記事にしたいと思います。SES会社の新人エンジニアがかわいそうになってくる件の営業職バージョンのお話をします。



SES会社界隈では、この時期は忙しいらしいです。売り上げに絡む「忙しい」ではなく時期的なものだそうです。5月のGW明けというのは、通年忙しくなるそうです。

何故かというと、新人営業の新規開拓の問い合わせが多くなるからだそうです。 そんなの断ればいいでしょ!と思いましたが、なんでもSES会社というのは、IT系ではあるものの不動産屋さんと似ていて横のつながりが大切だそうです。だから基本的に新規での連絡が来た場合はタイミングが合わない、対応ナメているということがない限りはまあ通常業務に支障が無い範囲内で対応をするそうです。
横のつながりが大切というのは、普段は自社のエンジニアはすでにどこかの現場に常駐してしまっていて待機要員がいないため、お客さんから増員の依頼が来ても提案出来ず、すぐすぐ即戦力のエンジニアを採用するのも難しいため、ビジネスパートナーという名の同業他社から技術者を借りてくる必要があるらしいです。また、自社のエンジニアでなにかしらの理由で案件がなく行き場を失った場合、同じくビジネスパートナーに協力を依頼して案件を探してもらうのだそうです。
こういった理由でSES会社は、うまく営業していくためには横のつながりを大切にしていないと成り立たないそうです。



SES営業の2つの仕事

そもそもSES会社の営業の仕事というのは
 ①仕事(開発案件)をくれるお客様への営業
 ②エンジニアを提供してくれる開発会社への営業
の二つがメインらしいです。この2つはバランス良く営業しないと、会社の売り上げは伸びて行かないそうです。
うまい例えをしてくれました。
開発者からすると商品丸出しなので、あまり良い気分ではないですが、 商売の
調達(エンジニアを連れてきて)してきて 、売る(クライアントに提案する)
という基本と一緒だそうです。これが調達ばかりだと商品(エンジニア)だけはたくさんあるが、売る顧客がなくて在庫(待機要員)を抱えるだけになり、売る(提案する)事しか知らないと、商品が無くて売り上げが立たず何の意味もないということでだそうです。
確かに立場は違えど私も、社内なり社外なりお金を出してくれる発注者がいないとそもそもお金が入ってこないですが、エンジニアを提供してくれる開発会社さんがいないと、体制が出来上がらないので開発出来ず仕事になりません。この2つはバランスが取れていないと意味がないですね。


開拓先はまずは同業他社に

それでSES会社の新人営業は何をするのかというと、
4月というのはどこの会社も新人研修にだいたい時間をかけるそうです。4月の末から5月のGW明けくらいになると、営業を開始するそうです。営業先はほぼ同業他社だそうです
ここも面白い理由があるそうです。
入社して1ヶ月程度の社会人1年目に、いきなりSIerやWebサービス会社に営業をしてもロクに言葉もわからず、ビジネスマナーも怪しい状態では無礼な真似をして二度と取引出来なくなると困るため、星の数ほどある受託開発会社やSES会社を回らせて、まずは場数を踏ませるそうです。それで業界の言葉を理解させて営業に慣れさせ、あわよくばエンジニアを提供してもらったり、自社に待機中のエンジニアを提案して使ってもらおうという魂胆だそうです。
このあたりは、どこの業界でもある営業職の新規開拓だとは思います。
だいたい、新人で営業職に就いたらこんな感じで、上層部は大して期待していないくせに、新人をとりあえず外を回らせて、決まったらラッキーを狙いに行きますね。すぐすぐ成果が出ないのがわかっているにも関わらず、ゲキ詰めしてプレッシャーをかけて恐怖で業務に縛ろうとします。それで出来る営業が現れれば、これまたラッキーで出来ない人は更に詰めていくという。怖いですね。


開拓先リストを新人個人で作成

まあそんな営業職の方の話は置いておいて、
そんな感じで同業他社を回らされることになるそうです。それでこの時期から新人営業による新規開拓の問い合わせが多くなるそうです。
ただ、聞いた所によるとこの新人営業の人たち、皆さん右も左もわからずに新規訪問先を探しているため、どこに営業をすればいいのかわからないらしいのです。
自社の業務、IT業界の構造も大して理解していない(教えられていない)ため、闇雲にネットで企業を検索しているらしいです。この点は面白くて、私も「なんてキーワードで検索しているんですか?」と聞いてしまいました。
 すると、

「特定派遣」「開発会社」

といったキーワードで主に調べて企業を探しているらしいです。
ここにJavaやPHP、C♯などの特定の開発言語を追加したり、「東京」「関東」などと地域の特定をしたりと独自に工夫を始めるんだとか。
「開発会社」というキーワードはわかりますが、「特定派遣」というのは私も「なんでそれ?」と思ってしまいました。「特定派遣」は業務委託で使われている常駐型のエンジニア派遣でよく使われている特定労働者派遣事業者のことで、届け出制のためSES会社や受託開発会社では取得して、この届け出番号等をWeb上のコーポレートサイトに記載しているので、「特定派遣」で検索した場合、探している対象企業が検索結果に表示されやすいそうです。
ただ、開拓先リストを個人で管理している会社がほとんどであるため、同じ会社の別営業さんから近い時期に連絡が来るというバッティングが何回かはあるそうです。
確かに某SES会社の営業さんが、社員がみんなでソーシャルゲーム開発会社のG社(プラットフォームじゃないよ)に新規の電話をしているが全然取り次いでくれないと前に話していました。みんなで電話しても意味ないと思います・・・。


新人営業にはKPIが設定されている

そんな風にアプローチ先を調べていく新人ですが、さらに面白いのが新人営業にはどの会社も同じKPIが設定されているそうです。
KPIはその会社によって数字に違いはあるそうですが、決まって「一日5件訪問」 といった、一日あたりの企業訪問件数がKPIとして設定されているそうです(もしかしたら月単位で目標設定をしてそれを日割りに落とし込んでいるのかもしれません)。訪問件数はアポ無しの飛び込み訪問ではなく、アポを取った上での訪問らしいです(というかこの業界でアポ無しで会ってくれる会社はあるのか????)。


Web検索で受託会社、SES会社をどれだけ探せるのかがカギになる

そうすると、アポを取る事が新規開拓の最重要課題になるそうです。
しかし、どの会社も決まって開拓先リストのようなものが新人に渡されるわけでもなく、自ら見込み先リスト作成を含めて進めて行くそうです。アプローチの手段もさまざまらしく、Eメールで問い合わせフォームから攻めて行く新人もいれば、電話で攻めて行く新人もいるそうです。
ただ、私が話を聞いた営業さんいわく、結局営業は相当なセンスの持ち主以外は大数の法則で出来不出来が決まるらしく、 SES会社の新人営業も、どれだけ数多くの受託会社、SES会社を検索で調べてリストアップし、アプローチ出来るかで結果は決まるそうです。確かに一日100件電話して平均アポ1件だとしたら、一日200件電話したらアポ2件になる可能性がありますね。なんだか、WebマーケティングのPV⇒CT⇒CVみたいです。

そうすると、いかにアプローチ先を増やせるかが勝敗のカギになるようで、突き詰めるとどれだけSES会社をWebで見つけられるかの戦いになってきます。

 ちょっと極端ではありますが、自分の評価がWeb検索⇒リストアップの差で決まるとしたら、なんだかかわいそうですね。私の知人でも、証券会社に入社した人は新人の時一日300件電話していたとか言っていましたが、何かしらのリストがあってそこからアプローチしていたそうです。
仮にその人が高いコミュニケーション力を有しており、対人交渉にて高いパフォーマンスを発揮出せる才能があったとしても、Web検索があまり得意ではなく、リストアップも遅れていて周りに先を越され埋もれてしまっているという人がいるかもしれません。
目先の評価が一日の訪問件数で見られるとしたら少し考えどころです。


 会社サイドで見た場合

会社側から見た場合も一応、補足しておこうと思います。
 会社側からすると、新人営業にリスト作成から開拓を行わせるという行いは、ある種合理的といえば合理的です。

・人材育成にかける手間が省ける
・一人称で業務をさせるので、成長機会がある
・同業他社に開拓をさせるため、横のつながりは増える
・そもそもコスト扱いだった新人営業がラッキーで、売り上げを作ってくれることもある
・使えない社員をふるいにかける事ができる

こういったメリットもあります。

生命保険会社の営業が典型的な例ですね。
生命保険会社の営業(昔はよく保険のオバチャンなんて言われていました)は離職率が高いです。生命保険会社の新人営業はとりあえず成果を上げようと、入社するとすぐに話を聞いてくれる身内や友人に営業をするそうです。それで話を聞いてくれる先、契約してくれる先をある程度刈り取ったら、結局そんな身内や友人に営業しているような人は、見込み先がなくなると行き詰まって結局辞めてしまうそうです。しかし生命保険会社は、すぐに辞めてもなんとも思わず、また新人を採用します。生命保険会社はこれを繰り返して行きます。そうすると、離職率は高くなりますが、このような新人の営業が契約していった契約だけが残っていって、生命保険会社は契約数は伸びていくそうです。当然、月々の保険料がこの先ずっと振り込まれて行くので保険会社はウハウハです。しかも頼まれて契約したけど辞めてしまったのなら解約しようかな・・・という解約はそれほど多くないそうです。「善意の押しつけ」と言われる生命保険ですが、その商品の特性上契約したままでも何か損をするわけでも無く、将来への保証なので解約はそこまで無いそうです。

つまり、SES会社の営業を外回りさせればさせるだけ、一応、横のつながり作りをしてくれるため会社としてはメリットになり、その新人営業が辞めたとしても引き継ぎ等させて会社としてはつながっていくので結局悪くはないということです。
営業させて目が出なければ、ゲキ詰めしてクビにすればいいだけなので、ある種ドライです。
この手のSES会社は、大体が中小、ベンチャーが多いので、営業で使えなかった人は行き場がなく、クビが間違いないでしょう。そう言う意味では東証一部上場とかで人数も何千といる会社の方が、仮に営業で使えなくてもどこか別の部署に行ける可能性があり、
まだ活躍機会はありますね(おおかた、営業出来なかったヤツは何をやらせてもダメだろうと、お荷物社員の烙印は押されるでしょうが)。



人材育成は様々にあるが・・・

というわけで、新人営業はこんな感じで新規開拓を行って行くそうです。
それで何がSES会社の新人営業がかわいそうになってくる件なのかというと、

・ロクに商材(自社エンジニアの特徴)についても理解していないのに外回りをさせられ、恥をかかされる
・ 業界のついてよくわからないのに、とりあえずWeb検索してテキトーにアプローチしていく
・営業で使えない烙印をおされた場合は、ポジションが他になくクビが濃厚

という点がかわいそうだなと思います。

営業職というのは、どこの業界に行こうが近いものではあります。ただ、「IT企業」「ベンチャー」といった言葉に騙されてSESの世界に迷い込んでくる若い方も多いので、冷静に
 ・自分の会社がどういったことをしているのか
 ・他社とどういった違いがあるのか
 ・営業する商材はどのようなものであるのか
ということを理解した上で、この業界に来るとよいと思います。

とりあえず新人営業の人たちには、心が折れて会社を辞めないように頑張って欲しいです。